パリは燃えているか?-Inori Minase LIVE TOUR 2024 heart bookmark 感想 –
総括
異色の上級者向けセトリ⁉
全体的にはしっとり曲多めのセトリで、キラーチューンで会場を沸かすというより、ミディアムバラードを中心に据えて「歌や音色を聴かせる」ことに重きを置いたセトリだったかと思います。これまでの「オタクはこういうの好きでしょ?」的なセトリから、(アッパーチューンが随所に現れつつも)全体的には落ち着いた、いい意味で暗いセトリだったなという印象です。過去のメロフラで言っていた「じめっとしたセトリ」がやりたいというのは、こういうことかーと納得しました。本人のキャラクター的にはこの方がらしいといえばらしいですね。
また、フラーグムやキティキャなど明るめの曲も散りばめられていて盛り上がるゾーンもあり、オタクが聴きたい曲への配慮もあったようでした。ガスバーナーで一気に熱するのではなく、カイロのようにじんわりと会場の温度を上げていくようなセトリになっていた印象です!
個人的にはこう聴こえたという話でしかないのですが、いのりちゃんの歌唱のコンディション1とオタクの一体感の点で、兵庫公演と千葉公演には大きな差があったと思います2。セトリやコンセプトが良かっただけに、兵庫公演はややもやもやした気持ちで帰宅した記憶がありますが、千葉公演は今年最大といっていいほどの満足感・充実感がありました。大人しい曲が多めかつバンドサウンドもアコースティック寄りでしたし、相当の歌唱力がないと破綻しかねないライブシーンでしたが、そこは水瀬いのりさん、(特に)千葉公演では感動するレベルの歌声を届けてくれました3。本人はおくびにも出しませんが、歌い手に高い実力を要求するセトリだったように感じたのですが、どうでしょうか。
純粋に音楽を聴くという観点では、やはりいのりバンドに新メンバー二名が加わったことの意義は大きかったです。ヴァイオリンとパーカッションはこの手の現場には珍しい楽器ですが、単なるバンドサウンドの引き立て役にとどまらず、バンドサウンド全体に厚みを与えていました。すまりのソロパートは言わずもがなの見どころでしたし、にゃんちーのパーカッションも欲しいところに欲しい音を届けてくれて思わず満面のオタクスマイルでしたね。
コンセプトはやはりヨーロピアンスタイルを多分に打ち出してきていて、街中での路上ライブをイメージしていたっぽいです。ぶち上がる系セトリでvoi voiしたいオタクには物足りないライブではあったようですが、その方面はいのりさんのライブには正直求めていないですし、結構好みのテイストでした。
一点だけ不満を言うと、このセトリならオールシッティングゾーンが欲しかったですかね。『グラデーション』あたりは座ってまったり楽しみたかったですし、MCの時間もオタクが全員立っている4のでステージを見るには立つ他なくて脚が辛かったです。
いのり&いのりバンドの関係性
人と関わることが決して得意ではなく、自らも人見知りを公言している水瀬いのりさんですが、年を追うごとにバンドとの距離がグッと縮まっているなと思いながら毎年ライブに参加させていただいてます。割と初期からいてなおかつ出演回数も多いみっちーさんに対しては、以前からかなり心を開いている印象でしたが、町民集会2024から加わったにゃんちー・すまりに対しても、MCでは割とグイグイ迫っていましたね。にゃんちーは見るからに優しそうだし、同姓ということで話しやすいのは分かる。、ただ、すまりは現地で見た方はお分かりの通り、ちょっと浮世離れしているというか、つかみどころがないキャラクターですよね。そんなすまりですが、いのりちゃんからパワハラ一歩手前の無茶ぶりをされたり、逆に千葉公演・北海道公演ではいのりちゃんに反撃する5一幕もあり、おいおい随分仲良くなるの早くないか、と思いました(笑)
私も人との距離感の測り方がいのりさんと似ている(と自分は思っている)ので分かるのですが、自分からイジれる人に対しては多分相当心開いてます。その意味で言うとギターのドラちゃんに対しても(はっきり言ってかなり変人ですが、)気を許している間柄なのではないかなと思った次第です。
「水瀬いのり」という音楽ジャンル
今回のツアーを通して、彼女が目指している音楽の方向性6は、完全に一般的な声優アーティストがやることの先を見据えているのだなと思いました。愛知公演では「自分は歌のプロというわけではない」と謙遜されていましたが、楽曲への向き合い方はどう考えてもプロだと思うし、彼女の音楽への「お気持ち」は日々ツイッターとかに怪文を垂れ流しているどのオタク7よりも強いはずです。
本ツアーのコンセプトもセトリこそ大人しいものの、これまでを考えると挑戦的な内容でしたし、並みの歌唱力のアーティストでは本当にお通夜ライブになってしまいかねないとは先にも述べた通りです。しかし、そこは水瀬いのりさん、数々の高難易度曲を易々と歌い上げ、楽曲ごとにいくつもの表情を見せてくれました。お世辞ではなく、ここまでの満足感をくれる声優アーティストは水瀬いのりさん以外に居ないと思います。
彼女のアーティスト活動は傍からみれば順風満帆のように見えるかもしれませんが、長く町民をやっていれば決してそうではないことを知っているでしょう。メロフラでも何回か本人から言及がありましたが、2022年glowツアーを機にライブの方向性や歌い方を大きく変え、模索しながらも年々進化を重ねてここまできました。その間に、音楽性の違い8から他界してしまったり、第三者による公式アカウントへの不正アクセス騒動関連で知らずのうちに蒸発してしまったオタクも、わずかですが観測しています。それでも、現在の声優アーティストの中で、町どころか市ができる数のファンを抱え、単独ライブでららアリーナ2Daysを埋めることができる存在は片手で数えるくらいしかいないのも事実。観客動員数が多ければ優れているとはこれっぽっちも思わないですが、ファンクラブ会員でも決して安泰ではないような激しいチケット争奪戦を勝ち抜き、わざわざ現場に足を運んでいるファンがこれだけいたといた事実。つまり、水瀬いのりさんに惹きつけ、自分の目でライブを観たいと思った人がそれだけいたということです。
そのうえで、新しい「水瀬いのり」の音楽を追い求めること、切り拓くこと。行き先を間違えれば何万ものオタクを置いてけぼりにするリスクだってあるでしょう。しかし、ハーフアルバム『heart bookmark』やライブツアーの感想を見聞きする限りでは、hbツアーは成功に終わったと言えるでしょうし、この新しい試みがそれこそデビュー当時から追ってきた古参のファンにもちゃんと刺さっているようです。
そして、来年はアーティスト活動10周年。本人は10周年というメモリアルイヤーをことさら特別視しているようではなさそうですが、9年目の一歩先の景色に期待でいっぱいです。もっと言えば、いのりオタクが来年のことで頭がいっぱいなのに対して、本人はさらにその10年先を考えてすらいそうですね。いずれにせよ、水瀬いのりはいつだって過去最高の水瀬いのりを見せてくれる存在だという確信があります。この景色を思い出としてココロにブックマークしながら、来年もここで待ち合わせとしましょう。
参考文献
MCの内容はところどころterraさんのブログ記事を参考に記憶を補完しました。ありがとうございました。